2ちゃんの絶望書店スレがずっと一番底のほうに沈んでいて、ようやく落ちるのかと想ったらまたあげられてしまった。いつもは一番底に沈む前にアゲる人がいて、松田新平氏がやっているのではないかと竊かに考えていたのだが、死んでしまったとたんに沈みっぱなしになって、アゲかたもいつもと違ったので、やはりそうであったのかも知れん。
松田新平の名前を聞いたことがない諸氏は、いまさら識る必要など微塵もない。ウェブ上に無数にいる住人のひとりという存在でしかない。
死んだという情報が流れてから、松田氏が昔張ったリンクから辿ってくる方もちらほらいるし、またこれを機会に松田氏がウェブに遺した膨大な足跡を読み返そうかなんて醉狂な方もいるようなので、少し記しておこうかと想う。
松田氏は何故か絶望書店のことを非常に高く評価してくれていた。最初に来たのは2000年の春ということなので、古書マニアでない方としてはかなり早い時期からということになる。
それから3日に一度は覗いていたそうで、また絶望書店日記ではなく棚のほうを主に読んでおられたようで、当方にとってはまことにありがたい存在ではあった。
最初に接触があったのは某氏とのやりとりで絶望書店の観客が一時的に増えたときのことで、アンケートにお答えをいただいたのだが、そのあたりのことは松田氏自身が絶望書店スレに書き込んでいる。
電波で名高い松田氏があのスレにいると識って、これは妙な具合に荒れるのでないかと危惧していたのだけど、突如としてトロンについて発言したくらいであとはおとなしくしていたようで杞憂に終わった。
あの書き込みに合わせて、トロンについて記した松田氏の日記について、何故かあたしに何か発言して欲しいというメールが届いた。絶望書店でトロンについて書いたことはなかったはずなんだが。
あたしは現在のトロンがどうなっているのかまったく識らないけど、日米摩擦の頃のいきさつは池田信夫が書いてるような見方を当時からしていたし、あの部分の池田への反論みたいなことをやってる輩もいるがまったく取るに足らない些末な話で、そもそも国と引っ付いただけではなく万が一トロンが主流になったら困るから形だけ噛んでおくなんて姿勢の大企業をあてにしたりするからあんなことになるんであって、あたしがいうところの<他者>が絡むとろくなことにならんというのはあれを見てはっきり意識するようになったんだったというような返事をしようかと想ったのだが、考えてみれば携帯ともクルマともまったく縁のない日々を送っていて、さしたる興味もないトロンによってせっかく平穏なる松田氏との関係に波風立たせるのもなんだと無難な返しをしておいた。
あたしはそれまで西和彦スレくらいでしか松田氏を見たことがなく、ただ周りの人々が「あれは電波だ」と書き込んでいるので、そうなのかなと想っていただけであった。メールも何通かもらって、その内容はあたしにはあんまりよく理解できなかったのだけど、それほど長文でも粘着でもなく、取り立てて電波という感じは受けなかったし、関係はいたって良好と云えた。最初から電波ならそれはそれで対処のやり方もあるが、わりあい平穏だったのでいつ起こるか判らない電波発動に必要以上に警戒していた感がある。おんなじ電波でも自分が引き金を引いてしまったのでは、受けるダメージが大きい。
そもそも、松田氏の考えがもひとつ読み取れず、トロンマンセー、池田死ねという感じでもなかったし、あれはどういうことだったのか、トロンの話題を聴くたび考えてみるのだが、考えるほどのことでもないのか。
自己顕示欲の強い松田氏は、電波だからと人々に追い立てを喰ったスレなんかではやむなく名無しで書き込むこともあったようだが、とりあえずはそんな心配のない絶望書店スレでも名無しで書き込んでいるのを見て、あんがい周りのことも考えてるのかなという印象を持った。また、本は買いたいけど実際見てみなくては買えないと頻りに云っていて、結局一冊も買ってくれなかったのも電波らしくないなと想っていた。
名無しの書き込みを誰なのかバラすなんて趣味の悪いことをしているのは、松田新平氏がウェブ上に遺した眼に見えるだけでも膨大なる足跡のほかにこういうのもあることを示すためで他意はない。少なくともあたしには誰の書き込みかはっきり判る形で書いてるので、べつにいいだろう。
あたしのように直接逢ったことのない者にとっては肉体の滅びはあまり意味がない。ウェブ上に足跡が残っている限り、またこれもじつは松田新平だったと新たに判ったりする限りは生きているのとおんなじだ。げにウェブというのは妙なものではある。ウェブとはいったいなんなのか、改めて考えさせる。人のいとなみというのは何なのかなんてなこととおんなじなのかも知れんが。この一年ほど音沙汰がなかったので正直忘れていたのだが、今回の情報でむしろ復活しているし。
肉体を失ったことで松田新平はウェブと一体化してしまったのか。逢ったことのない者にとって肉体がほんとに存在したのかどうかも判らんので、最初から一緒のことなんだが。どっちにしたって、あれだけ膨大な量を刻印して、どこにでも顔を出していたからこそこんなことも考えさせるわけで。
ネットコミュニティーなんてものにおよそ縁のないはずの絶望書店も、こういう特異なる存在によって否応なく結び附けられているのだなと、松田死亡の情報に接して想い知らされた次第。親しいとも云えんあたしなんかにも妙な感慨を覚えさせる人物ではあった。