絶望書店日記

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絶望書店主人推薦本
『冤罪と人類 道徳感情はなぜ人を誤らせるのか』
『冤罪と人類 道徳感情はなぜ人を誤らせるのか』

冤罪、殺人、戦争、テロ、大恐慌。
すべての悲劇の原因は、人間の正しい心だった!
我が身を捨て、無実の少年を死刑から救おうとした刑事。
彼の遺した一冊の書から、人間の本質へ迫る迷宮に迷い込む!
執筆八年!『戦前の少年犯罪』著者が挑む、21世紀の道徳感情論!
戦時に起こった史上最悪の少年犯罪<浜松九人連続殺人事件>。
解決した名刑事が戦後に犯す<二俣事件>など冤罪の数々。
事件に挑戦する日本初のプロファイラー。
内務省と司法省の暗躍がいま初めて暴かれる!
世界のすべてと人の心、さらには昭和史の裏面をも抉るミステリ・ノンフィクション!

※宮崎哲弥氏が本書について熱く語っています。こちらでお聴きください。



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2006/10/26  『炎の女 伊藤野枝伝』をいまさらながらも推す!

 せっかく広大なる領地を得て、画像もやたらと増やしたので本の紹介など。
 
 炎の女 伊藤野枝伝 岩崎呉夫 昭38年初版 七曜社 カバー痛み 2000円
大きい画像は「文学」の棚にて。※当店ではすでに売り切れ
 
 古今のあまたある本の中で、あたくしはまず第一にこの書を推します。殊に女子には読んでいただきたく。
 伊藤野枝の無茶苦茶な人生も凄いけど、それ以上にこれは本として実に良くできている。伝記文学の傑作。装丁も素晴らしい!!
 野枝はどこからどこまでわがまま勝手なだけのコギャル(死語)そのものだが、19歳で『青鞜』を受け継ぐ出版への情熱には撃たれる。また、甘粕を含めて妙な連中を惹きつける磁力は凄まじい。
 とくに木村艸太の恋文は素晴らし過ぎる!!文章の力だけでここまで見事に時空を歪め意識を変容させてしまえるものであるか!!!いい!!!!僕は今じつにいいのです!!!!!
 
 そしてまた、アナーキズムなどというご大層な理屈を捏ねながらも、野枝はわがまま勝手なだけの己の慾望を萌やし続けて、たしかに灼然として一個の世界と闘う女であり続けている。それも男や上流階級の女どもを踏み台にしてのし上がるんであるから、なんか無闇にハードボイルドタッチ。コギャル(死語)の単なるわがままがなにゆえここまで確固たる形象を為すスタイルを感じさせるのか。社会正義などではなく、ひとりの小娘の裡に萌えたる自分勝手な慾望の炎が、灼灼として興り丈高く炎上し続けるからこそなのか。
 しかも、関東大震災という拠って立つ世界の崩壊のなかで、憲兵という国家権力そのものに法を無視して虐殺されるという、女子の単なるわがままなる慾望の行く末としては望外の成果を我が身に獲得してしまう。
 じつは世界や国家のほうが巨大なるアナーキストだということを、己の命を燃やし尽くすことによって逆説的に歴史に刻み附けるんである。
 これは世界への勝利であり敗北であり、死ぬことによって両面を示してしまうんであるから、このひとりの女子のわがままなる慾望はたしかに世界と厳然として對峙し拮抗したのであった。
 
 外装が痛んでいるのでこのお値段です。何故かこの本はみんなぼろぼろの状態で出てくるのです。みなさん擦り切れるまで幾たびも幾たびも読み返すのでありましょうか。
 これだけの書が絶版であり続けるというのもまた、この世界が強大なるアナーキストであることを示しているようでまた好ましくもあります。
 捜し求めて、やはりまたこれもぼろぼろかと一冊づつ確かめて歩くのが、この十年ほどのあたくしの愉しみになっております。