おとといBSでやってくれたおかげで、やっと記録映画『日本万国博』を観ることができました。これで何となく少しは全貌が判ったような気が。
大阪万博には『日本万国博覧会公式記録』という恐ろしく分厚い3巻の本が残っているのですが、これがほんとになぁあああぁんにも書いていない。太陽の塔の内部図解でさえ、アムロが水爆の弾頭を切り離すときに観せられた図以上に簡単な落書きみたいなのが一枚あるだけで、むしろこれほどの無内容でよくぞこれだけ膨大なページ数を埋めたもんだと編集者の力量に感心します。『公式記録写真集』もいったい何を写そうとしたのかよく判らない写真が並んでいて、とにかく記録としてはウェブ上に数多くアップされてる家族写真ほどにも役立ちません。
数あるほかの本をいろいろ読んでみても、どうももひとつ判らない。
山田洋次の『家族』とか『ガメラ対ジャイガー』とか、大阪万博が出てくる映画も観てみましたが、やっぱりどうもよく判らない。反対に「何でガメラはソ連館があんなに好きなんだろ」とか疑問が増えるばかりです。ふたつともむしろ万博を映さないように工夫しているような印象さえ持ちます。ソ連以外の許可が降りなかったのでしょうか。あんな公的な建物のデザインに個別の権利がやっぱりあるのでしょうか。
エキスポランドの横っちょにある記念館では記録映画の1/10ダイジェスト版が毎日上映されているのですが、どうも肝心な処が切られてるし、画面が暗くてよく判らない。なんだか皆さん正面から捉えることを避けているような気がしてきます。
そもそもは我が家が一家揃って根性なしで、万博は一回しか行かなかったし、日本館で3時間並んだのにほとほと懲りてあとは観光地のおみやげ屋と変わらないようなマイナーなパビリオンしか廻らずに、ほとんど万博を避けてしまったのが一番悪いのですが。
三十年目にして、これでようやく僅かながらも近づけたような心持ちです。
堺屋太一さんもインパクなんかやるくらいなら、その予算でウェブ上に大阪万博を完全再現!とかしてくれたらよさそうなものを。唯一のインパク成功のカギだったのに、誰も云い出さなかったのでしょうか。堺屋さんもほとんど記録を残していないのは、やっぱり避けているのでしょうか。
あんな記録本を残す政府に頼ってもしょうがないですが、やはり関係者が生き残っているいまのうちに完全な立体記録を残しておく必要はあるんではないかと愚考いたします。細部まで完璧なるバーチャルリアリティの大阪万博です。
万博の時代は終わったなんて云う方がいて、それはその通りでもあるんですが、違う使い道もあるんではないかと。少なくとも大阪万博には。
梅棹忠夫や小松左京の影響なのか、はたまたいろんな流れが交差して均衡してしまった時代に偶々巡り逢わせてしまったからなのか、歴代の万博のなかでも大阪万博はバランスが非常によく取れています。なんだか科学や未来のイメージが突出していたように記憶されていますが、実際には宇宙を含めたあらゆる地域、古代から未来までのあらゆる時代、科学から美術からスポーツから宗教まであらゆる文化、明らかに<綜合>ということが目標になっています。お祭り広場では連日世界各国の歌や民族舞踊が繰り広げられておりましたし。
それらを再現しただけでもあらゆる情報を集めた、優れた百科事典になります。
あらゆる情報を総合した完全な百科事典を創ろうという企ては古代からあり、最近では荒俣宏や高山宏なんかが盛り上げておりましたが、そこに出てくるメタファーは本であったり図書館や博物館であったりしました。いや、万博であったりしても、大阪万博の話は出てこないのです。ダブル宏の世代は大阪万博を無視したいという心情が働くようです。
あたしは本や図書館や博物館や歴代の万博よりも、大阪万博こそが完全百科事典を体現するに相応しいと考えます。前年のアポロ月着陸で頂点を極めた科学と、公害などによって出てきた科学崇拝への反省が対峙し、未来への興味と伝統文化見直しが対峙した綜合的な万博、とくにメディアという面で究極に達しており、ウェブのあるはずの現代はむしろ後退しているのではないかとさえ想います。来場客さえも、70年ファッションのモデルとなりますし。
最近はバーチャル博物館なんてものがいろいろあるようですが、展示物だけではなく建物や会場そのものが興味の対象となり、イベント性があって180日の会期という時系列順にも体験することができ、何よりも人々を惹き附ける力が違い過ぎ、比較にもなりません。端的に云うとヲタク心があるのです。メディアとして優れている最大の要因であります。太陽の塔の目玉に居座った親父がいるだけでも、ほかの薄っぺらなバーチャル博物館はまったく勝負になりませんな。
できればウェブ上で皆で協力しながらCGで再現し、映像なんかも当時のものをそのまま流すのではなくCGで再現し、個々の展示物すべてに詳細な説明文やリンクをつけたりしたら、Britannicaなんかよりそうとう結構なものになります。学校なんかに通うよりはこんな場で競い合うほうが身に付くんではありますまいか。ウェブ大学のモデルともなりますな。
想うにCGなんかをやってる方で、絵は描きたくてしょうがないけど自分のテーマが見つからないのでしかたなく美少女キャラなんかを描いてる人は多いんじゃないかと愚考いたしますがいかがなもんでしょうか。また、ありあまる知識を無駄に持て余している人も多いかと存じます。
これらの方々をバザール方式で結集したら面白くなると想うんですが。日本型のオープンソース運動としてはこういう方向のほうが向いているんじゃないかと想います。それともOSなんかを創るほうが面白いんでしょうか。立体的な完全百科事典を、つまりは宇宙を創るほうが面白いんではないでしょうか。
PS2なんかもゲームではなくてこんなソフトのほうが向いてるように想います。時代そのものが、もうゲームでもないような気もしますが。ウェブ上の商売も、ネット対戦ゲームやタダでウェブスペースを貸してコミュニティづくりをしたりするより、こんなやり方で集客するほうがいいような気もします。少なくとも昨今のインチキ臭いベンチャーよりは、まだしも何とかなりそうなビジネスモデルではないかと愚考いたします。パビリオンを主催した企業や各国観光局なんかから金も引き出しやすいでしょうし。べつにビジネスにすることもないのですが、権利関係に金が掛かりますかな。わざと外した形にする手もありますが。
誰かやりなさい。小松左京さんなんかいかがですか。誰も全体を体験できなかった大阪万博をそういう形象に結晶させるのは、たんなる再現ではなく完成と云えるのではないでしょうか。
絶望書店とは独りでゼロからこんなことをやろうとしている試みであったのですよ。識ってましたか?