未映子がまたもや名前を変転させて川上未映子となって、「そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります」なる本を出した。
こらまたなんちゅうタイトルで処女出版やねん。中身はほんとに詰まって、想いのほかずっしり重いな。いや、物理的ではなく内容ね。息抜く閑のなき言葉と思索のざわざわした鬩ぎ合い。
未映子が来る!とぶちあげてから2年と半年、ここがひとつの到達点ではある。絶望書店主人の眸がいかに確かであったか、諸氏はいまこそ想い識ることになるであろう。
なんせ、野中ユリの表紙絵を背負っての登場だからな。野中ユリ装画というのは、藝術を統べる帝位直系の継承者である証、三種の神器のひとつで、あとのふたつは永劫に失われてしまっているわけだからな。
それも宇宙がびっしり三段に詰まった化粧道具箱の絵かいな。これほどの御璽を握ってデビューした物書きは有史ほかにおるまい。
改めて見廻すと、いつの間にかビクターのあの公式サイトがなくなった。とうとう最後まで検索拒否し続けて未映子の邪魔をし続けていたのか。
てなことを書こうかと想ってた矢先、未映子のブログでまだ告知がアップされる前、南阿佐ヶ谷の書原で、未映子の顔がでっかく表紙に載った早稲田文学が山積みされてるのに偶偶遭遇してびびった。すっごいな。まるで未映子大特輯号ではないの。
つーか早稲田文学っていつの間にこんなことになってたのかね。タブロイド判にでっかくなって、フリーペーパーだと。
なんせただでもらえるから、諸氏らもVol.07をありがたくもらってきて、未映子の「感じる専門家採用試験」を一読してみなはれ。驚愕して口も利けんくなるから。
いとうせいこうも眼を付けたみたいだけど、まだあんまり捕らえ切れてはおらんようで。
下の一覧に示したように絶望書店日記ではやたらと未映子のことを持ち上げてきてて、嗤ってる輩も結構いたのだが、これからは絶望書店主人のあまりの正しさに心を入れ替え、絶望書店主人の足許に屈することとなろう。いや、あたしに屈する必要はないので、その貌を上げて、未映子に跪きたまえ。
壓倒的なる藝術に跪くこの歓びよ!何世紀かに一度しか味わうことできぬ藝術の奇蹟に遭遇できたこの幸運よ!
まあ、いまはまだ嗤ってる輩もしぶとくおろう。しかし、しばらくすれば己の不明を想い識ることとなる。ものごっついことになって、野中ユリのほうが未映子の装画をやったということで評価が上がることになるであろうから。
この絶望書店主人の眸はフシアナではない。
※追記
乱視読者でロリータの若島正があまりにも素晴らしい書評を書いていたので引用しておきます。
12/17 毎日新聞 今年の3冊
「そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります」川上未映子著
若島正(京大教授・米文学)
恥ずかしながら、わたしは「文筆歌手」という妙な肩書きを背負った川上未映子という著者がどんな人なのか、まったく知らない。まあしかし、それはどうでもいいではないか。頭でっかちなタイトルを持ったこのエッセイ集は、今年読んだ本のなかで飛び抜けて面白かったのだから。ここに入っている、「私はゴッホにいうたりたい」という名文をもじって言えば、わたしは川上未映子にいうたりたい。めっちゃいうたりたい。 あんた、ええ本書いたなあ。
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うーん、これはいいねえ。
絶望書店主人がいまさらこういう文章を出しても白々しい感じが出てしまうけど、これから未映子に遭遇する諸氏はこういう素直な感想を述べることができるのでまことに羨ましい。
しかし、よく見ると「ゆうたりたい」が「いうたりたい」になっとるな。点睛を欠いておる。あかんやっちゃな若島正。
未映子道は奧深く果てしないので、襞襞を掻き分け掻き分け精進するように。
未映子関連の絶望書店日記
○『わたくし率 イン 歯ー、または世界』あるいは川上未映子なんて剣玉
○未映子が来る!
○思考の塊を投げつけろ!
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ライブドアの傘下に入った場合は、スポンサーが降りて、フジサンケイグループとの関係も絶たれて経営が立ち行かなくなるとニッポン放送自身が発表しているわけですが、これはつまり、自分たちのやってる番組そのものに商品価値なんてもんはこれっぽっちもなくて、ただ古くからのお友達関係のお情けでお金を恵んでもらってやっているに過ぎませんと公的に認めたということなんですが、そこんとこを誰もつっこまないのは、すでにラジオなんてのはそういうもんだろうと皆さんが考えているということなんでしょうか。
産経新聞がホリエモンに説教するなんてこともありましたが、毎年何十億も赤字を垂れ流しながら親会社に養ってもらってる本来存在できるはずのない方々が、いかにインチキ商売とは云え自分たちで自立してお金を稼いでいるライブドアに偉そうなことを云うのはいかにもおかしな話だと想います。
そもそも、ライブドアを非難する人々があれは<虚業>に過ぎないと云ってるのがどうにも違和感があるのですが、放送だとか出版だとかジャーナリズムだとかコンテンツだとかウェブだとか、これは全部<虚業>ではないのか?
そんなことを考えながら鹿内信隆の本を読んでたら、この人が産経新聞の社長に就任した昭和43年に「新聞社というものは虚業の最たるものだ」と発言していて、笑ってしまいました。
当時も産経新聞は気の遠くなるような赤字を垂れ流していて、それまでグループで稼いでこの赤字を埋める側だった鹿内としてはこう云いたくなるのも判ります。しかし、じつはこの頃は産経新聞の輝やける赤歴史のなかでも比較的マシだったのであって、このあと石油ショックでいよいよえらいことになって社員の半数の首を切るという滅茶苦茶なリストラを断行する。最近では右路線の好調で多少楽になったとは云え案外部数は延びておらず、苦しさは鹿内が虚業と云った頃とたぶん変わらん。ただ、グループ全体が当時より巨大になったので多少の赤は養えるようになっているのですが、これとてテレビがコケればどうしようもなくなる。そして、テレビはもうもたないでしょう。
すべては蜃気楼の上にあります。
鹿内一族というか初代の鹿内信隆のいかがわしさえげつなさはホリエモンの何百倍の威力で、ムチャクチャおもろいので皆さんもうちっと研究されてみることをお奨めします。
ウェブ上では本所次郎『閨閥 マスコミを支配しようとした男』が話題となってますが、これは「文藝春秋」などのいくつかの記事を無断でそのままコピペしただけのしろものですから、元の記事を読んだほうがいいです。中心となった記事は佐野眞一『あぶく銭師たちよ! 昭和虚人伝』に納められていますので読み比べてみたらいいですが、『閨閥』はほんとにそのまんま。あわてて絶版にしたのもむべなるかな。それでいて最後に「本作はフィクションであり、実在の個人・団体などとは一切関係ありません」とか断り書きがあっておかしいのですが、これはこれでメタ小説としてなかなか興味深い。<虚業>とはなにかを探る上での彩りにもなって、ヤフオクで値が上がっているのもゆえなしとはしません。
さて、世間では鹿内信隆が創業者として紹介されることが多いですが、実際にはニッポン放送やフジテレビというのは植村甲午郎や水野成夫などの財界の大物が日経連をバックに創業したもので、鹿内は彼らに雇われた番頭に過ぎません。それが創業者が死んだ後に抜打ちで株を買い占めて創業者一族を追い出してグループ全体を乗っ取ってしまう。世話になった相手を騙しながら乗っ取るのですからえげつなさはホリエモンどころではない。
さらには公共の電波をなんの経験も能力もない息子に継がせて(結果的に成功したので能力はあったのでしょうが、その時点ではなんの能力も示しておらず、信隆も春雄には能力がないと考えていた)、これがまたライブドア的な軽い文化祭のりだけでなぜか成功するが、女帝のいかがわしい宗教によって息子の病気は手遅れとなって若死にし、またこの宗教が元となった女帝の怒りからクーデターが起こって婿養子ともども鹿内一族は放逐される。
果ては幻の王権復興のために小学校にも行かせず庭にも出さずに彫刻の森美術館に何年も幽閉されている、鉄仮面や謎のカスパール・ハウザーもかくやという幼き総領孫までいます。※宗教や幽閉については三代目・宏明の嫁さん(信隆の末娘)が書いた「文藝春秋」1993年4月号の記事参照。
なんとも、ライブドアはオウムに似ているとか云ってる場合ではありませんぞ。
最大の問題は一介のサラリーマンに過ぎない鹿内がどうやって莫大な株購入資金を個人で得たかというところにありますが、これについては開局当時の総務局長という人が実名を出しながら「ニッポン放送の運転資金を流用していたフシがある」という驚くべき証言をしています。ほかに財界筋のなにか不正があったという証言もあります。※「文藝春秋」では「フシがある」なのに『あぶく銭師たちよ! 』では「流用していたとしか考えられない」と書き換えられています。
ここで上記の「新聞社は虚業の最たるもの」発言ですが、これは田中角栄に云った言葉です。池田勇人政権の財界四天王と呼ばれた創業者の水野成夫が、成り上がり者で自分にたてつく田中角栄を嫌って、莫大な金を注いでスキャンダルを暴き、産経新聞の経営とともに資料を鹿内信隆に託したのですが、鹿内はこれを持って何故かのこのこ田中に逢いにゆき、田中の人間性に打たれて資料を灼いてしまいます。
さらに、資料を捨てると約束したあとというのがミソなんでしょうが、田中が産経新聞再建のための資金提供を申し出、鹿内はこれをきっぱりと断ります。しかし、断りながらも何故か必要な額を提示します。この文脈で出てきたのが上記の言葉で「新聞社というものは虚業の最たるものだ。かりに百億や二百億のカネでもすぐ消える」というわけです。※鹿内信隆『指導者・カリスマの秘密』で本人が書いてます。
資料とバーターに田中経由で資金が出てきたと考えたほうが自然ではないかとあたしは考えます。いくら当時のニッポン放送の景気がよかったとは云え、何十パーセントもの株を押さえるだけの額を流用はできんでしょう。開局から10年以上掛かってこつこつと流用したということなのやもしれませんが。
田中角栄本人が出すはずはなく、実際の資金の出処と鹿内がはじめた正論路線とのつながりとかいろいろ勘繰りはできます。
もっとも、このあたりは株取得の時系列を調べて、この年より前だったらすぐに否定される推測です。一応、創業者が弱ってからやったという前提で考えてますが、ニッポン放送には水野の眼が届かないので、もっと早くにやってることかも知れません。
いずれにせよ、サラリーマンには絶対無理な資金がどこからか湧いてきて、5億円の自宅だとか、時間外の相対取引だとかなんてのとは比較にならない巨大な不正を基盤としてフジサンケイグループが成り立っていることだけは間違いないのに、いまに至るまで誰も追及してないというのは、この国にジャーナリズムなんてものが果たして存在しているんでしょうか。
まだ鹿内信隆がトップに君臨していたときにこれだけの証言を得て活字化しているのに、それ以上なんも掘り下げてない「文藝春秋」や佐野眞一というのはいったいなにもんなんでしょうか。
ライブドアに対してジャーナリズムとは云々とか偉そうに語ってる輩は恥ずかしくはないのでしょうか。
一方で、ネットジャーナリズムとか云ってる輩やジャーナリスト志望の学生さんなんかが、日枝会長の自宅前インタビューを撮影してきてそのままウェブで流すくらいのことを何故やらないのかも不思議でしようがない。
それどころか、ここで掲げた資料程度を元にして書いてる人もほとんどいないようですし。
亀渕社長は数少ない鹿内宏明の側近だったのにクーデターで大将が失脚するとあっさり見捨てて日枝派に寝返り、それ以降、異様なまでに日枝に忠誠を尽くすのはこの経緯があるかららしいとかいろいろ掘り下げ方はあるはずなんですが、表面に流れている情報だけを元にみなさん語っている。
『閨閥』でひとつ判らんのは、日枝会長はもともと組合の委員長だったのに、組合潰しのプロである鹿内信隆に懐柔されて反対に鹿内秘書になって取り入って出世したということになっていて、これがほんとなら鹿内の不正な株取得に関わっていたということになるんですが、嘘ならなんでわざわざこんなストーリーにしたのか、少なくともなんかの典拠があってコピペしただけだと想うのですが。通常流布されてる話では、組合活動のため干されて、二代目の社長就任とともに編成局長に抜擢されたことになってるけど、これもいろいろ辻褄の合わんことがあって、ここんところを誰か掘り下げてもらいたいもの。
はたまた、ホリエモンも3/11に『閨閥』を読んで感心したみたいで、つーことはここに掲げた情報なんかも調べてないということでいかにも泥縄。
まあ、<虚業>というのはきちんと金を得ることと、おもろいかどうかということが重要で、あたしにはいろいろ疑問もあるもののライブドアに関してはみなさん愉しんでいるようだから充分成り立っているのではないでしょうか。
それにしても鹿内信隆の<虚業力>は素晴らしい。流用にせよ角栄スキャンダルにせよ、乗っ取る相手の金をそのまま使って乗っ取ってるんだからLBOどころじゃない。
産経新聞の再建も、もっとも金の掛かる流通をなくすというウェブ的というか、より<虚業化>を押し進めることによってるし、フリーペーパーを成功させたのもその延長線上にある。はたまた、社員の半分を首切りしたのも、米国の新聞を手本として通信社を活用して、もらってきた発表をそのまま記事にするだけの記者クラブにも人員を張り附けないという理論に裏付けされたもので、取材なんか必要ないというホリエモンの発想と通ずる<虚業>精神がある。
放送だとか出版だとかジャーナリズムだとかコンテンツだとかウェブだとかを考える者は、鹿内信隆を見習っていかに<虚業化>を押し進めるかということをもう一度考えてみるべきではありますまいか。
その前に必要なのが、自分たちがやっているのは立派な<虚業>であるという矜持です。
※本所次郎『閨閥 マスコミを支配しようとした男』入荷しました。
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